コーヒーといえば、真っ先に思いつくのがブラジルやコロンビア。こうした国に比べ、今回取り上げる「パナマ」は知名度も低く、生産量は世界第42位(2022年)と多くありません。
2022年 コーヒー豆の生産量(抜粋)
順 位 | 国 名 | 生産量(トン) |
---|---|---|
1 | ブラジル | 3,172,562 |
2 | ベトナム | 1,953,990 |
3 | インドネシア | 794,762 |
4 | コロンビア | 665,016 |
5 | エチオピア | 496,200 |
42 | パナマ | 7,500 |
しかし、2004年に「ゲイシャ」が当時の世界最高価格で落札されたことをきっかけに、パナマのコーヒーシーンは一気に注目を集めました。
パナマ産コーヒーの味わいの特徴や歴史、そしてゲイシャが注目を集めることとなった経緯などについて、詳しく解説します。

パナマ産コーヒーの特徴は?
ゲイシャはなぜ高いの?
パナマってどんな国?
コーヒーソムリエの資格を持つ筆者がこれらの疑問を解決し、パナマ産コーヒーの魅力を伝えていきます。また、手軽に楽しめるおすすめのパナマ産コーヒー豆も紹介しますので、気になる方はぜひお試しください!

- 日本安全食料料理協会(JSFCA)認定
コーヒーソムリエ - 日本技能開発協会(JSADA)認定
コーヒープロフェッショナル - 年間2,500杯分以上コーヒーを
淹れる人

- 日本安全食料料理協会(JSFCA)認定
コーヒーソムリエ - 日本技能開発協会(JSADA)認定
コーヒープロフェッショナル - 年間2,500杯分以上コーヒーを淹れる人
パナマってどんな国?
パナマは、南北アメリカ大陸をつなぐ中米の国。北アメリカ大陸側はコスタリカ、南アメリカ大陸側はコロンビアと、それぞれ国境を接しています。
国土は75,517㎢(北海道よりやや小さい)で、約8割は火山性の肥沃な土壌の丘陵地帯です。雨季(5月~12月半ば)と乾季(12月半ばから4月)に分かれており、コーヒー栽培に適した気候です。
パナマといえば、1914年完成の「パナマ運河」が有名。国土の中央部を約80㎞にわたって南北に貫くことで、南アメリカ大陸を迂回することなく太平洋とカリブ海を往来できるようになりました。
パナマ運河の通行料金はパナマにとって重要な財源で、国家予算の約1/4を占めます。
パナマ産コーヒーの特徴について

パナマ産コーヒーといえば、真っ先に思い浮かぶのが「ゲイシャ」。今やすっかり人気の品種ですが、注目されるようになったのは2004年以降と比較的最近のことです。
パナマで伝統的に広く栽培されているのは、ティピカやブルボン、カトゥーラなどの品種。その味わいは、酸味と苦味のバランスが良く、甘い香りが印象的です。
「ゲイシャ」は特別な存在
2004年、突如として現れたゲイシャ。エスメラルダ農園の片隅に残っていた老木からとれたコーヒーを、「ベスト・オブ・パナマ」(品評会)へ出品したことから物語が始まります(詳細は「パナマにおけるコーヒー栽培の歴史」で解説)。
ゲイシャは、ベルガモットやジャスミンを思わせるフローラルな香りが特徴的。そして、柑橘系の明るく爽やかな酸味や、果実感のある甘みなど、さまざまなフレーバーが絶妙にバランスを取っています。
- ベルガモット
- ジャスミン
- レモン
- アールグレイ
- マスカット
- グレープ
- はちみつ
- パッションフルーツ
など
さらに、はちみつにも例えられる甘い余韻は心地よく、香り・風味・後味すべてが飲む人を魅了します。
その独特で複雑な味わいが評判を呼び、1ポンドあたり21ドルという市場価格の20倍以上となる史上最高価格(2004年当時)で落札されました。その後も価値を高め、2020年には1ポンドあたり1,300ドル(日本円で15万円以上!)という、とてつもない値をつけました。
標高で決まるパナマ産コーヒー豆の等級

パナマ産コーヒー豆の等級は、栽培された地域の標高によって決まります。これは、グアテマラやホンジュラスなど中米によくみられる格付けの方法です。
標高が高いほど寒暖差が大きくゆっくりと成長するため、高品質な豆が作られると考えられています。
パナマ産コーヒー豆の等級
等級 | 標高 |
---|---|
SHB (ストリクトリーハードビーン) | 1,350m以上 |
HB (ハードビーン) | 1,050m ~ 1,350m |
EPW (エクストラプライムウォッシュド) | 900m ~ 1,050m |
パナマにおける代表的なコーヒーの産地
パナマ大使館によると、パナマにおけるスペシャルティコーヒーの特産地は次の3地域です。
- ボケテ地域
- ボルカン地域
- ピエドラ・カンデラ地域
また、これらの地域は「原産地呼称制度」にも取り組んでいます。ブランド化が進み品質が保証されることで、ますます付加価値が高まっていくことが期待されます。
農産物などについて、その原産地の名称を独占的に利用できる権利を保護する制度。
原産地呼称制度を活用している有名な例が「シャンパン」。数ある発砲ワインの中でも、シャンパンと名乗ることができるのはフランスのシャンパーニュ地方で生産されたものだけです。
パナマにおけるコーヒー栽培の歴史

パナマにおけるコーヒー栽培の始まりは、19世紀初頭、ヨーロッパからの入植者によってコーヒーが持ち込まれたと考えられています。しかし、農産物として生産されるのは、それから約100年後の19世紀末でした。
一方、同じ中米のグアテマラやコスタリカでは、19世紀中ごろにはすでにコーヒーは主要な農産物として定着し、19世紀末には経済を支える主要な輸出品目となっていました。この差は非常に大きく、パナマのコーヒーは長きにわたり注目を浴びることはありませんでした。
ターニングポイントは、2004年のことです。
衝撃的なデビューを飾った「ゲイシャ」
2004年開催された品評会「ベスト・オブ・パナマ」において、独特の香味で人々を魅了したゲイシャ。1ポンドあたり21ドルという市場価格の20倍以上もの価格(当時は史上最高)で取り引きされ、業界に衝撃が走りました。
しかも、「出品したゲイシャは、エスメラルダ農園の片隅にあった老木からとれたコーヒー豆」というのですから、驚きはなおのこと。物語としても興味深く、注目を集めます。
サードウェーブの流行がゲイシャの価値を高める追い風に

ゲイシャは、エチオピアのゲシャ村に自生していた野生種です。耐さび病品種として期待されて1963年以降パナマに広がりますが、収穫量が少なく、香味も当時としては”とがりすぎていた”ため、他品種へと植え替えが進んでいました。
しかし、そんな”とがりすぎていた”個性は、2004年当時に盛り上がりを見せていた豆の個性を重視する潮流(=サードウェーブ)とシンクロします。
1990年代後半に生まれた、スペシャルティコーヒーの個性や魅力、希少性などを大切にする潮流のこと。生産地や焙煎方法、ドリップの方法にもこだわり、フレーバーの違いを楽しむ。
「サードウェーブ」という言葉は、2003年にノルウェー出身のバリスタであるトリシュ・ロスギブが使いはじめました。
スペシャルティコーヒーの認知が広まり、サードウェーブの流れがまさに盛り上がりを見せていた2004年。「とがった個性」が肯定的にとらえられるベストなタイミングで登場したのが、パナマのゲイシャでした。
ゲイシャがもたらした好循環
ゲイシャを初めて出品したエスメラルダ農園は、2008年から農園単独でのオークションを開催します。これに続き、グアテマラのエル・ヘイント農園など、品評会で高評価を得ている農園も独自オークションを開催するようになります。
ゲイシャの登場をきっかけに、トレーサビリティや品質の向上、ダイレクトトレードの活発化など、消費者にも生産者にもメリットがある好循環が生まれました。
トレーサビリティ
生産地や処理工程などが明確になることで、消費者は安心してコーヒー豆を購入できる。農園独自のオークションは、もっとも詳細で明確なトレーサビリティが確保できる。
品質の向上
トレーサビリティが明確で生産者までたどれることによって、生産者にとっては高品質なコーヒーを提供することが求められる。
ダイレクトトレード
中間業者を介さずに、生産者とバイヤーが直接取引できる。そのため、生産者により多くの利益を還元できるだけでなく、消費者のニーズが生産者に届きやすい。
amazonで購入できるおすすめのパナマ産コーヒー豆

「ゲイシャ」という名前は聞いたことがあっても、パナマのコーヒーを飲む機会は多くありません。そもそも、流通量が少ないため店舗で目にする機会がほとんどないのが現実です。
そこで、amazonで手軽に購入できるパナマ産のコーヒー豆を紹介します。ぜひ、お試しください!
Scrop パナマ エスメラルダ農園 ゲイシャ
まず初めに紹介するのが、「Scrop パナマ エスメラルダ農園 ゲイシャ」。2004年、ゲイシャの名を世界に知らしめたエスメラルダ農園のゲイシャです。
ジャスミンを思わせるような華やかな香りと、柑橘系の爽やかでキレイな酸味。そして、甘い余韻が心地よい仕上がりです。
欅Cafe&焙煎 パナマ ラ・エスメラルダ ダイヤモンドマウンテン
次に紹介するのは、「欅Cafe&焙煎 パナマ ラ・エスメラルダ ダイヤモンドマウンテン」。
エスメラルダ農園で栽培されたコーヒーのうち、ゲイシャ以外の種類で構成されたコーヒーを「ダイヤモンドマウンテン」と呼びます。品種は、パナマで伝統的に栽培されているティピカ、ブルボン、カトゥアイ。
苦味と酸味の調和がとれたコーヒーで、ミルクチョコやナッツを思わせるフレーバー、そして甘く優しい余韻が印象的です。
参考サイト・参考図書
- 外務省
- パナマ大使館
- 在パナマ日本国大使館
- GLOBAL NOTE(国際統計・国別統計専門サイト)
- 『ビジュアル スペシャルティコーヒー大事典 2nd Edition』 (日経ナショナルジオグラフィック社)
- 『珈琲の世界史』(旦部幸博著、講談社)
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