本記事で取り上げるのは、コーヒー豆の精製方法。
よほど詳しくない限り、精製方法にまでこだわってコーヒーを選ぶ人は多くありません。しかし、精製方法の違いはコーヒーの印象を大きく左右します。
コーヒーの味わいは、次にあげる3つの要素によって大きく左右されます。
- 産地や品種(=豆自体の個性)
- 精製方法
- 抽出方法
産地や品種で違いが出ることや、抽出方法で味わいが変化するのは容易に想像できます。それらと同じように、精製方法もコーヒーの味わいに大きく影響を与えます。
新しい精製方法も生み出されていますが、この記事ではベースとなる4つの精製方法を解説します。
この記事をきっかけに、コーヒー豆の精製方法の違いにも注目してコーヒー豆を選べば、コーヒーの世界がぐっと広がります!

- 日本安全食料料理協会(JSFCA)認定
コーヒーソムリエ - 日本技能開発協会(JSADA)認定
コーヒープロフェッショナル - 年間2,500杯分以上コーヒーを
淹れる人

- 日本安全食料料理協会(JSFCA)認定
コーヒーソムリエ - 日本技能開発協会(JSADA)認定
コーヒープロフェッショナル - 年間2,500杯分以上コーヒーを淹れる人
本記事のまとめ
- ナチュラル
-
- 凝縮された果実味
- コクと芳醇な香り
- ウォッシュド
-
- クリーンな味わい
- きれいな酸味
- ハニープロセス
-
- 果実味と透明感が両立
- 瑞々しい甘さ
- スマトラ式
-
- コクと苦味
- ユニークなフレーバー
「精製」とはコーヒーチェリーを生豆の状態に処理すること

コーヒー豆の精製とは、収穫したコーヒーチェリーを焙煎する前の「生豆」の状態にすることです。「生産処理」ということもあります。
シンプルに天日干しで精製する伝統的な方法(ナチュラル)もあれば、果汁に浸して発酵させる最新の方法(ゴールドウォッシュド)など、多くの種類があります。
精製方法は大きく分けて4種類
現在流通しているコーヒー豆のほとんどが、この4種類のいずれかの方法で精製されています。「乾燥」「脱穀」という工程は共通です。
コーヒーチェリーは、図のような構造になっています。いわゆる「コーヒー豆」として商品になるのは、乾燥した種子の部分のみ。

4種類の精製方法は、種子にするまでの過程が違います。この違いについては、このあと精製方法別に解説します。
精製方法は気候や地理的な制約を受ける
精製方法に違いがある一番の要因は、気候や地理的な制約があることです。
- 乾燥時期に降雨が多い
- 水資源が乏しい
- 急峻な土地では天日干しが難しい
など
栽培地域の気象条件や地理的な条件にあわせて、その中で最善の精製方法を選択するしかありません。
しかし最近では、設備投資をしてでも精製方法にこだわりたいという作り手(農家)も出てきました。狙った味わいに仕上げるためです。
こうした流れは、精製方法の違いがコーヒーの味わいに与える影響が大きいことを裏付けています。
精製方法別の特徴について

4種類それぞれの精製方法について、風味の特徴のほか、精製の工程なども含めて説明していきます。
精製の工程を見る(図解)

果実味が凝縮された「ナチュラル」
ナチュラルの特徴は、濃厚な果実味とコク、そして芳醇な香りです。コーヒーチェリーをドライフルーツのように天日干しするため、コーヒー豆に果実感が凝縮されます。
- 濃厚な果実味
- コクがある
- 芳醇な香り
ナチュラルは、もっとも伝統的な精製方法で、エチオピアやイエメン、ブラジルなどで採用されています。
ナチュラルで精製されたコーヒー豆は、「コーヒーはフルーツ」ということを思い出させてくれるフレーバーです。一方で、カビの発生や腐敗など、比較的欠点豆が生じやすい精製方法でもあります。
ナチュラルの処理工程
- コーヒーチェリーのまま天日干し
- カビの発生、発酵、腐敗などのリスクが比較的高い
- 期間は2週間から1か月間程度
果肉やミューシレージ、パーチメントを脱穀して完成
コーヒーチェリーの断面図(図解)

洗練されたクリーンな味わいの「ウォッシュド」
ウォッシュドの特徴は、透明感のあるクリーンさときれいな酸味です。最初の段階で、コーヒーチェリーの果肉部分とミューシレージ(粘液質)を取り除くため、洗練された印象の味わいに仕上がります。
コーヒーチェリーの断面図(図解)

- 透明感のあるクリーンな味わい
- すっきりとした飲み口
- きれいな酸味
ケニアやコロンビア、グアテマラなど、広い地域で採用されています。特に、「明るく爽やかな酸味」が特徴であるケニア産のコーヒー豆は、ウォッシュドとの相性がよくおすすめです。
関連記事 >>> ケニア産コーヒー豆の特徴|焙煎の違いで選べるおいしさ
ウォッシュドは、ナチュラルよりも乾燥期間が短く済みます。ただし、水を大量に使うため、水資源が豊富な地域に限られます。
ウォッシュドの処理工程
「パルパー」と呼ばれる機械を使って、コーヒーチェリーの果肉を取り除く。
水に浸してミューシレージ(粘液質)を発酵させて取りやすくし、水で洗い流す。
期間は1~2週間程度。ナチュラルより短い。
パーチメントを脱穀して完成
コーヒーチェリーの断面図(図解)

果実感と透明感が両立する「ハニープロセス」
ハニープロセスの特徴は、果実感とクリアな味わい(透明感)が両立していることです。これは、精製の過程で、果肉やミューシレージの一部を「あえて」残すことが関係しています。
コーヒーチェリーの断面図(図解)

また、ナチュラルよりも欠点豆の発生を抑えつつも、ウォッシュドよりも水を使いません。まさに、「ナチュラルとウォッシュドのいいとこどり」です。
- 果実感がありながらもクリアな味わい
- 梨や桃のような瑞々しい甘さ
コスタリカやエルサルバドルなど、中南米系に多い精製方法です。果肉の除去割合によって、「ホワイトハニー」「イエローハニー」「レッドハニー」「ブラックハニー」と区分されている場合もあります。

よく似た精製方法に、ブラジルの「パルプド・ナチュラル」があります。工程はほとんど一緒ですが、パルプド・ナチュラルは未成熟豆を取り除くのが主目的のため、この記事ではハニープロセスのみ取り上げます。
ハニープロセスの処理工程
「パルパー」と呼ばれる機械を使い、コーヒーチェリーの果肉を取り除く。ただし、すべて取り切らずに一定割合を残す。
取り除く果肉などの量により変化(1週間~1か月間程度)。
パーチメントを脱穀して完成
コーヒーチェリーの断面図(図解)

ユニークな香りを生み出す「スマトラ式」
スマトラ式は、降雨量が多いインドネシアのスマトラ島で生み出された精製方法です。インドネシア以外では行われていません。
- 酸味が弱くコクが強い
- ユニークなフレーバー
「ユニークなフレーバー」とは、ハーブやスパイシーと表現されることがあります。個人的には、「アーシー(earthy)」という表現を好んで使っています。
「earth(地球)」という名詞に”y”を付けることで「earthy(地球っぽい、地球のような)」という形容詞にしたもの。
表現の例
- 土のような
- 木のような
- 自然な
- 素朴な
- 野性的な
関連記事 >>> マンデリンコーヒーの特徴|パンチのある苦味とユニークな風味が魅力的
また、スマトラ式は他の精製方法(ナチュラル、ウォッシュド、ハニープロセス)とは一線を画す、独特な精製方法です。特に特徴的なのは、乾燥を2回に分けて行うことです。

スマトラ式の処理工程
「パルパー」と呼ばれる機械を使って、コーヒーチェリーの果肉を取り除く。
水に浸してミューシレージ(粘液質)を発酵させて取りやすくし、水で洗い流す。
期間は数日程度と短い。
- 水分量が35%程度となったところで脱穀。
- 通常、脱穀するのは水分量が11~12%まで乾燥してから
再び乾燥させて完成。完成した生豆は、特徴的な深緑色をしている。
コーヒーチェリーの断面図(図解)

降水量が多く、十分な乾燥期間を設けられないために生まれた精製方法です。現地の人は、「ギリン・バサー」(「湿ったパーチメント」という意味)と呼びます。
好き嫌いは人それぞれ。優劣はない。
「ナチュラルの華やかな香りが好き」
「ウォッシュドの透明感が好き」
「ハニープロセスの瑞々しさがいい」
「スマトラ式の力強さが好き」
いろんな好みがあって、いろんな感想があって当然です。決して、それぞれに優劣があるわけではありません。
いろんな精製方法を試す中で、自分自身の声に耳を傾けながら「自分が好きな傾向」をつかんでいきましょう。
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